大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(ワ)8105号 判決 1957年4月10日

原告 神谷寿男

被告 千代田信拓殖産株式株会 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は(一)被告等は別表第一、第二記載の約束手形及小切手に基き被告会社の訴外由良精工株式会社に対する更生債権として認可せられたる金壱千四百七拾万円は原告に属することを確認する。(二)被告長沢一夫は右金壱千四百七拾万円の弁済のためにする株式及現金の交付はこれを原告に対してせよ。(三)訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並担保を条件とする仮執行の宣言を求め其請求の原因として(一)訴外由良精工株式会社は昭和二十八年六月十八日東京地方裁判所に対し会社更生法による更生手続開始の申立をなし該事件は同庁昭和二十八年(ミ)第十六号事件として受理せられ同年七月十五日更生手続開始決定がなされ被告長沢一夫これが管財人に選定せられ更生債権届出期間は同年十月三十一日迄と定められ昭和二十九年四月二十八日管財人より更生計画案が提出され同年七月二十八日該計画案は認可せられた。而して該計画案によれば一般債権に付三割は切捨二割五分に付ては今後更生会社の発行する新株を交付四割五分に付ては現金を以て支払うこととせられた。(二)更生会社は訴外内外株式会社に対し別表第一の1、2、3、4号の約束手形四通を振出し訴外株式会社清水重商店に対し同表5、6、7、8号の約束手形四通を振出し訴外富口商事株式会社に対し同表9号の約束手形一通を振出し被告会社(旧社名は千代田殖産建設株式会社)に対し同表10号の約束手形一通を振出した。(三)前記1、2号の約束手形は支払期日前受取人の裏書により被告会社に移転し更にその裏書により訴外高松栄次郎所持のところ昭和二十八年十一月十五日原告に移転し3号乃至9号の約束手形は支払期日前受取人の裏書により被告会社に移転しこれを高松栄次郎所持のところ右同日原告に移転し、10号の約束手形は支払期日前受取人たる被告会社の裏書により右栄次郎所持のところ右同日原告に移転し別表第二の1、2号の小切手は被告会社所持し次で右栄次郎所持のところ右同日原告に移転した。(四)従て原告は右手形小切手取得の点のみからすれば昭和二十八年十一月十五日以後は更生会社に対し右額面合計金二千百四万六千二百円の請求を有するものであるが、被告会社は昭和二十八年十月二十三日右約束手形及小切手の権利を更生裁判所に届出で該権利は更生裁判所の第一回債権調査期日たる昭和二十八年十一月十一日に何人よりも異議の申出がなかつたので届出通り直ちに確定したものである。

(五) 然るところ訴外高松栄次郎は右約束手形及小切手に基く権利一切を管理処分し得る権限を有していたのでこの権限に基き前記の如く右権利一切を原告に譲渡したのである。(六)仍て原告は被告会社に対し該権利の名義変更手続をなすべきことを求めたが、被告会社はこれに応じなかつたので原告は更生裁判所に対し昭和二十九年五月二十一日該権利一切は原告に属するものである旨を届出で更生裁判所より被告会社に其旨を通知したが、被告会社は故らに原告の主張を容れなかつたので更生債権表の記載はもとの通り維持せられ更生計画認可により右届出債権の権利者は被告会社であること及この債権額は壱千四百七十万円であることが決定された。(七)以上の通りであるから右更生債権一切は原告に属するものでありしかもこの権利は債権確定後(即ち昭和二十八年十一月十一日の債権調査期日に於ける確定後)に於て譲渡されたものでありこれは調査期日前に譲渡された場合に於て更生法第一四七条其他により確定するが如き場合とは全く異なり何等の規定がないから本訴に及んだと述べ立証として甲第一号証乃至第十六号証を提出し証人高松栄次郎の尋問を求めた。被告等は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実中(一)(二)の事実は認める(三)の事実中被告会社が本件約束手形小切手の所持者となつたことは認めるが爾后原告に移転したことは被告等は否認する。(四)の事実中被告等は原告が更生会社に対し合計金二千百四万六千二百円の請求権を有する点は否認する其の余の事実は認める(五)(六)の事実中認可決定のあつた更生計画の債権者表に於ける本件の約束手形及小切手についての債権者が被告会社となつていること、その債権額が原告主張の如くであることは認めるが其余の事実は否認すると述べ被告会社は甲第一号証乃至第十三号証の成立を認め利益に援用し其余の甲号証は知らないと述べ被告長沢は甲第十四、十五号の成立は知らないと述べた。

理由

原告の本訴請求原因事実の(一)(二)の事実(三)の事実中被告会社が別表第一の約束手形を裏書により取得したこと別表第二の小切手を被告会社が取得したこと。(四)の事実中被告会社が昭和二十八年十月二十三日右約束手形及小切手の権利を更生裁判所に屈出て該権利が更生裁判所の第一回債権調査期日たる昭和二十八年十一月十一日に何人よりも異議の申出がなかつたので届出通り直ちに確定したこと(六)其後右更生債権表の記載は維持せられ更正計画認可により右届出債権の権利者は被告会社であることこの債権額は壱千四百七十万円であることが決定されたことはいずれも当事者間に争のないところである。ところで原告は本訴に於て被告会社が届出でた本件債権を更生計画の認可前たる昭和二十八年十一月十五日取得した被告等に対し右債権が原告に属することの確認を求むると共に被告管財人に対して更生債権として更生計画により認可された金壱千四百七十万の弁済を原告に求めることを請求するものであるが右の如き場合原告が其権利を主張する方法は会社更生法第百二十八条により届出名義の変更を受け名義変更につき争あるときは債権確定手続で争うべきものであるところ原告が右届出名義の変更を受けたことは之を認める証拠がなく前記の如く更生債権表には被告千代田信託殖産株式会社が記載されかくして更生計画の認可決定があり同被告の更生債権について計画上の権利が認められた以上その権利内容並権利主体については計画認可の段階では利害関係人に於て一切不可争の状態に置かれ以後別個の裁判により当該更生債権の帰属に付之を争うことができないことは同法第二百四十条第二百四十三条第二百四十五条等の規定からして窮はれ従て原告と被告千代田信託間に於て譲渡に関し争があれば右当事者間のみの争として別個に処理さるべきである然らば原告は本訴に付自らの権利を主張し得る利益を欠くを以つて之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決した。

(裁判官 池野仁二)

別表第一(約束手形)<省略>

別表第二(小切手)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例